障害年金とは?
突然の病気やけがによって仕事や生活に制限を受けてしまった。
もしくは、子どものころからの病気やけがによって就職や生活に制限がある。
長い人生を送る中で直面するかもしれない、こうした「まさか」の事態。
そんなときに頼りになる公的な給付制度が「障害年金」です。
一般的に、「年金」というとご高齢者が受けるイメージが強いように思われます。
また、年金制度自体が複雑で難しそうだな・・・と思われるかもしれません。
ただ、年金制度そのものは以下のようにシンプルにとらえることができます。
年金 = 国が実施している保険
ですので、「自動車保険」や「がん保険」などと同じように、
保険料を支払う ⇔ 条件を満たしたときに保険金(年金)が受け取れる
という制度になります。
年金は受け取る条件ごとに、以下の3種類に分かれています。
老齢年金 | 【趣旨】老後の生活資金 【条件】一定の年齢(原則65歳)になった |
---|---|
遺族年金 | 【趣旨】遺された家族の生活・養育資金 【条件】一定範囲の家族が亡くなった |
障害年金 | 【趣旨】障がいがある方の生活資金 【条件】一定の障がい状態になった |
このように、一定の障がいがある方が受け取れる公的な保険が障害年金になります。
どんな人がもらえるの?
新たに障害年金を申請する場合、原則として以下の条件をすべて満たす必要があります。
条件(1):病気やけがで初めて病院を受診した日(初診日)が証明できる
条件(2):初診日までに一定の保険料を支払って(免除や猶予をして)いる
条件(3):初診日から1年6か月経過した日(障害認定日)を過ぎている
条件(4):病気やけがによって仕事や日常生活に一定の制限がある
条件(5):現在、20歳~64歳である
詳しくは以下の解説をご参照ください。
病気やけがで初めて病院を受診した日(初診日)が証明できるとは?
障害年金の申請において、初診日は非常に重要な役割があります。
・保険料を納めていたかどうか ⇒ 初診日の前日で判断
・障がいの状態 ⇒ 初診日から1年6か月経過時点(または現時点)で判断
・障害年金の種類 ⇒ 初診日時点で加入していた年金制度で決定
ですので、初診日を証明できなければ障害年金をそもそも申請できるのか、あるいは年金の種類や金額を決めることができません。
なお、障害年金制度における初診日とは以下のように定義されます。
・その病気やけがの症状を訴えて最初に医療機関を受診した日
ですので、「正式に病名が確定した日」や「専門科を受診した日」ではありません。
うつ病で、最初に体調不良で内科を受診したのであればその日が初診日になります。
また、ほかの病気が原因となっている場合は、原因となった病気の初診日を証明します。
たとえば、糖尿病性腎症で申請する場合には糖尿病そのものの初診日を証明します。
このように、初診日は考え方が複雑であると同時に、初診日から5年以上経過していると医療機関のカルテそのものが残っていない可能性もあることから、証明そのものが難しいケースも珍しくありません。
この場合、他の資料やは第三者の証言などから証明できるかどうか検討することになります。
例外的に、「知的障害」は生まれた日を初診日とするため、証明は不要となります。
初診日までに一定の保険料を支払って(免除や猶予をして)いるとは?
障害年金は保険制度ですので、きちんと保険料を納めていることが条件となります。
具体的には、初診日の前日時点で以下のどちらかの要件を満たす必要があります。
・3分の2要件:初診日の前々月までの全期間中、未納が1/3以下である
・直近1年要件:初診日の前々月までの1年間に未納がない
保険料の「免除」や「猶予」をしている場合、初診日の前日までに申請したものであれば納付期間に含めることができます。
初診日から1年6か月経過した日(障害認定日)を過ぎているとは?
障害年金は病気やけがになったからといってすぐに申請することはできず、原則として初診日から1年6か月経過後(かつ、20歳以後)にはじめて申請することができます。
これは、一定期間治療を受けてもなお症状が改善しないものを対象とするためです。
初診日から1年6か月を経過した日のことを「障害認定日」といい、この日の時点で後述の障害等級に該当していると認められた場合には、障害認定日の翌月分からさかのぼって年金を受けることができます。(「認定日請求」、といいます。)
ただし、申請から5年よりも前の部分の年金は時効消滅してしまいます。
たとえば、障害認定日が10年前のケースで請求が通った場合、実際にさかのぼって受けられるのは過去5年分のみとなり、残りの5年分は時効消滅となります。
なお、障害認定日時点では障害等級に該当していなくても、その後症状が悪化して障害等級に該当した場合は、「障害年金を請求した日」の翌月分から障害年金を受けることができます。(「事後重症請求」、といいます。)
症状が徐々に悪化する進行性の病気などでは、こちらの請求方法が一般的です。
特例的に、以下の病気やけがは初診日から1年6か月前であっても申請できます。
咽頭全摘出 | 全摘出手術を受けた日 |
---|---|
人工骨頭・人工関節 | 挿入・置換手術を受けた日 |
肢体の切断・離断 | 切断や離断した日 |
在宅酸素療法 | 療法を開始した日 |
ペースメーカー・人工弁・ICD | 装着手術を受けた日 |
心臓移植・人工心臓 | 移植・植込手術を受けた日 |
人工透析療法 | 透析開始から3か月を経過した日 |
人工肛門・尿路変更術 | 手術日から6か月を経過した日 |
新膀胱 | 増設手術を受けた日 |
脳梗塞・脳出血など脳血管障害 | 初診日から6か月経過後、症状固定となった日 |
遷延性意識障害 | 障害の起算日から3か月経過後、症状固定となった日 |
病気やけがによって仕事や日常生活に一定の制限があるとは?
障害年金は、単に病気やけがとなっただけで受けることはできず、仕事や日常生活に一定の制限があると認められることが条件となります。
より具体的には、国が定める「障害認定基準」に該当する必要があります。
ただし、等級は「障害者手帳」や「交通事故の後遺障害」とは無関係です。
ですので、手帳の対象外の病気やけがでも障害年金を受け取るケースもあります。
なお、「仕事に制限がある」とは、「仕事ができない」という意味ではありません。
病状にもよりますが、身体の症状によりデスクワークしかできない、精神の症状により対人関係の仕事に就けない・・・といった状況も「仕事に制限がある」となります。
また、収入があることのみで「仕事ができている」とはなりません。
また、障害年金の等級判断は「仕事や日常生活上の制限の程度」という数値化しずらいものが基準となるため、診断書で医学的な状態(検査数値など)を訴えるだけでなく、申請の際には自身で仕事や日常生活の状況を記載した書類(病歴・就労状況等申立書)を提出する必要があります。
障害認定基準で定める等級基準は以下の4種類があります。
表にも記載のとおり、初診日時点で加入していた年金制度によって対象となる障害等級が異なる点に注意が必要です。
障害1級 | 【イメージ】身の回りのことも介助が必要 |
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障害2級 | 【イメージ】単身での外出や生活に制限がある |
障害3級 | 【イメージ】仕事に大きな制限がある ※初診日時点で厚生年金加入が要件 |
障害手当金 | 【イメージ】仕事や生活にやや制限がある ※初診日時点で厚生年金加入が要件 |
現在、20歳~64歳であるとは?
障害年金は、現時点で年金制度に加入している方が申請できます。
生まれつきの障がいなどで20歳よりも前に初診日から1年6か月を経過していても、障害認定日は「20歳の誕生日の前日」となります。
なお、20歳前に就職して厚生年金に加入し、その加入期間中に初診日がある場合は20歳前であっても申請できます。
一方で、障害年金は老後の年金をもらうまでの病気やけがが対象となります。
具体的には、65歳(希望すれば60歳~繰り上げ可能)からの「老齢基礎年金」を受ける前に初診日がある病気やけがが対象となります。
また、障害認定日の項目でも触れたように障害年金は障害認定日にさかのぼって申請する方法(認定日請求)と、現時点から申請する方法(事後重症請求)の2通りがありますが、事後重症請求は65歳まで(老齢基礎年金の繰上げ請求をした場合はその前まで)に行わなければなりません。
なお、65歳以後にはじめて障害年金を申請できるケースは以下が考えられます。
・65歳前に初診日がある病気やけがについて、認定日請求を行う
・65歳前に初診日がある別々の病気やけがについて、「初めて2級請求」を行う
※初めて2級請求:単独では3級以下の病気やけがを併合して2級以上となる場合の申請方法
・65歳以後の厚生年金加入期間中に初診日がある病気やけがで請求する
※報酬比例部分のみの厚生年金の受給となり、老齢年金との併給は不可
※保険料の納付を見る際は「直近1年要件」は使えません
老齢年金よりも上の厚生年金のほうが金額が多いケースの大多数は未納期間が多いため、国外居住者や外国からの転籍者など未納以外の理由で加入期間が短い方向けです
・年金加入期間が10年未満のため65歳以後も年金に任意加入している場合で、
加入期間中に初診日がある病気やけがで請求する
※前項と同じく、保険料の納付を見る際は「直近1年要件」は使えません
こちらも国外居住者や外国からの転籍者など未納以外の理由で加入期間が短い方向けです
どうやったらもらえるの?
障害年金の申請の流れは以下のようになります。
※あくまで一例ですので、必ずしも以下の順番でなくて構いません。
・申請書類を入手する
申請書類はお近くの年金事務所でもらうことができます。
初診日時点で国民年金に加入(または20歳前で未加入)であれば市町村役場でもらうこともできます。
また、初診日時点で公務員や教職員であり共済組合に加入していた場合には、共済独自の書類があることがあるため、共済組合への確認が望ましいです。
・初診日の証明(受診状況等証明書)を作成してもらう
はじめて受診した医療機関で、「受診状況等証明書」に証明してもらいます。
もし、カルテが現存しないなどの理由で証明を受けることができない場合には他の手段で証明できないかどうか、検討することになります。
また、初診日が証明できれば必要に応じて年金事務所で保険料の納付状況や初診日時点で加入していた年金制度の確認を行います。
・診断書を作成してもらう
申請する病気やけがごとに専用の診断書がありますので、必要な診断書をもって医療機関に診断書を作成してもらいます。
障害認定日にさかのぼって認定日請求を行う場合、障害認定日から3か月以内の日付の診断書を投じ受診していた医療機関に作成してもらいます。
また、事後重症請求を行う場合、あるいは認定日請求を行う場合で認定日から1年以上経過している場合は、現時点の診断書が必要となりますが、診断書には有効期限(診断書現症日から3か月以内)がありますので、ご注意下さい。
・年金請求書や申立書を作成する
年金請求書や申立書など、申請に必要な書類を作成します。
特に、「病歴・就労状況等申立書」は障がいの状態を訴えるための重要な書類となりますので、審査側にご自身の状況が伝わるような記載を心がけます。
また、申請の方法などケースに応じて必要な添付書類が大きく変わりますので、作成漏れがないよう適宜チェックリストを用いるなどの工夫も効果的です。
・住民票や戸籍謄本・所得証明書などの交付を受ける
はじめて提出する場合は住民票、加算対象となる配偶者や子がいる場合は戸籍謄本や所得証明書の提出が必要となりますので、市町村役場でこれら証明書の交付を受けます。
これら証明書にも有効期限がありますので、ご注意ください。
なお、共済組合に提出する場合はこれらの書類が不要、もしくは障害等級の認定後に改めて提出を求められるなどするため、事前確認が望ましいです。
・請求書類一式を審査機関に提出する
申請書類の入手先に対して、必要な書類一式を提出します。
提出後、審査機関から問い合わせや書類の訂正・追加提出指示を受けることがありますので、随時これらに対応します。
なお、審査完了後は原則として郵送で結果通知が送られてきます。
年金を受けることになった場合、通知から1,2か月ほどで初回入金となります。
どれくらいのお金がもらえるの?
障害年金の金額は、障害等級や家族構成、加えて初診日時点で厚生年金に加入していた方は過去に納めてきた保険料などによって個人ごとに異なりますが、過去の申請経験から年間で60万円~200万円の間になるケースが多いかと考えます。
また、障害認定日にさかのぼって請求を行う認定日請求が認められた場合、時効の範囲で最大で5年分の年金を受け取ることができます。
なお、具体的な障害年金の金額は、以下の通りです。
◆障害基礎年金(令和6年度)
障害1級 | 年額1,020,000円 +年金生活者支援給付金 月額6,638円 |
---|---|
障害2級 | 年額816,000円 +年金生活者支援給付金 月額5,310円 |
子の加算 | 1人あたり年額234,800円(2人目まで) 1人当たり年額78,300円(3人目以後) |
◆障害厚生年金(令和6年度)
障害1級 | 報酬比例の厚生年金×1.25 +障害基礎年金 |
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障害2級 | 報酬比例の厚生年金×1.25 +障害基礎年金 |
障害3級 | 報酬比例の厚生年金 最低保障額:年額612,000円 |
障害手当金 | 報酬比例の厚生年金の2年分 最低保障額:1,224,000円 ※年金ではなく一時金で支給 |
配偶者の加給年金 | 年額234,800円 |
いつまでもらえるの?
障害年金は、原則として1年~5年の範囲での有期認定となり、定期的に認定を受けなおす必要があります。
再認定の時期になると国から「障害状態確認届(≒診断書)」が届くため、主治医に記載してもらい、国に提出して認定を受けることになります。
この手続きのことを俗に「更新」や「再認定」などと呼んだりします。
例外として、障がい状態が今後変わらないケースでは永久認定となります。
※たとえば、肢体の離断・切断や恒久的な失明など
また、65歳になると老後の年金(老齢年金)を受けられるようになりますが、老齢年金と障害年金の両方を受けることはできず、どちらか一方を選択します。
これは、老齢年金でなくとも遺族年金を受けることになった場合も同様です。
ただし、65歳以後は基礎年金(国民年金)部分を「障害基礎年金」としたうえで、厚生年金部分を「障害厚生年金」あるいは「遺族厚生年金」とすることは可能です。
※老齢基礎年金または遺族基礎年金と、障害厚生年金の組み合わせはできません。
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